2021年、第165回直木賞受賞と第34回山本周五郎賞受賞を受賞した佐藤 究(さとう きわむ)さんが描く『テスカトリポカ』をご紹介。(KADOKAWA/ページ数:560)
直木賞受賞後は大きな話題となり、現在10万部を突破しています。
今作は麻薬密売人や過激な暴力を描いた内容ですが、それは編集者から「クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』のようなド派手な犯罪小説を描いてください」と依頼があったそうです。
佐藤さんは“国際的なヤバい犯罪の人たちが理由があって日本のある町に来るなら説得力がある”と考え、小説を描きすすめたとか。
アステカ、ジャカルタ、川崎と舞台を変えながら麻薬・貧困・暴力の世界が繰り広げられるノワールな世界。
そして、古代アステカ神の話が絡み合う壮大なスケールの犯罪、昨日まで知らなかった新たな世界を見せてくれる直木賞受賞作です。
海の向こうの恐ろしい人たちの作り出した犯罪が僕らの手の届くところにあります。
そういうことが読者の皆さんに伝わるように描きました。
目次
著者 佐藤究『テスカトリポカ』あらすじ・ネタバレ
主人公はメキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人ロス・カサソラス4兄弟の3男 バルミロ・カサソラ。
メキシコの都市レイノサで麻薬カルテルを率いたバルミロは、麻薬組織との抗争で兄弟家族を皆殺しにされる。
抗争に敗れ、バルミロ1人が敵組織の攻撃を生き抜いたが、その組織に追われメキシコから逃走。
バルミロは逃走からたどり着いたインドネシアのジャカルタで、日本から逃亡中の元心臓外科医(臓器ブローカー)末永充嗣と出会った。
末永は元心臓血管外科医だったが、轢逃げで全国指名手配となっていた。
メキシコに戻り壊滅した麻薬組織を立て直したいバルミロ、そして外科医として日本に帰りたい末永。
お互いの目的のため手を組んだ2人は、資金集めのため日本で闇の組織を作り、小児心臓の臓器ビジネスを実現させるという犯罪の道へ突き進んでいく。
その犯罪とは、子どもの心臓をアステカの神に捧げる生贄儀式、もう一つは超富裕層の病に掛かった子どもへの臓器移植。
それは、無国籍の子ども達の心臓を取り出し、その遺体をバラバラにした。
バルミロが心臓を欲する理由とは、亡き祖母の影響で『テスカトリポカ』という生け贄の心臓を求めるアステカ王国の神を信仰していたのだ。
そして、舞台は日本の神奈川へ。
バルミロと末永は、川崎市の自動車解体場などを拠点に更なる犯罪へ暴力と支配に飲み込まれていく。
バルミロと末永が率いる組織に加わった土方小霜(コシモ)。
コシモは、親からの愛情を受けずに育った身長2mの体ばかりが大きい子供の様な青年。
日本で働くためにメキシコからきたコシモの母親は薬中毒、父親は川崎の暴力団幹部・土方興三の両親を持つ混血児。
コシモは両親から育児放棄され、小学校もまともに通うことがなかった不遇の幼少期から両親殺害の罪で少年院を退所していた。
コシモは超人的怪力を持つの怪物のような怖ろしい男だが、あまりにも純粋で物語の最後には心臓を摘出されそうになった順太を助ける。
自分を殺戮マシーンに育て上げた父ともいえるバルミロとの対決を制した場面は、唯一の爽快感を感じるシーンです。
日本を舞台に次々と犯罪に巻き込まれ、多くの人物が暴力に飲み込まれていく様がとてもリアルに描かれています。
今回、ご紹介した本はこちら
丸山ゴンザレスの実体験の話を活かした『テスカトリポカ』
#王様のブランチ 芥川賞・直木賞特集ご覧になりましたか?👑
直木賞を受賞した『テスカトリポカ』、佐藤究さんはこの作品を書く際に丸山ゴンザレスさんを取材されたそうです!
丸山さんが世界のダークサイドを語る『世界ヤバすぎ!危険地帯の歩き方』こちらです→ https://t.co/vo5d6jSZDi pic.twitter.com/V1vND2NQ23— 産業編集センター出版部 (@shcbook) July 17, 2021
丸山ゴンザレス:丸山祐介(まるやまゆうすけ)本名
生年月日:1977年10月30日([birth day="19771030"]歳)
出身地:宮城県
学歴:國學院大學大学院修了
『テスカトリポカ 』のリアルな描写には、著者の友人でもあるジャーナリスト丸山ゴンザレスさんという助っ人がいたそうです。
丸山 ゴンザレスさんは、宮城県仙台市出身のジャーナリスト。
麻薬密売人をスペイン語で「ナルコ」、「エル・ポルボ(粉)」・「心臓(ヨリヨトル)」と言いますが、丸山ゴンザレスさんはかつてナルコの取材をしたとか。
裏社会など、危険地帯に詳しい犯罪ジャーナリストの丸山さんが、実際に麻薬密売人と対面した話が『テスカトリポカ』に盛り込まれているそうです。
佐藤究(さとうきわむ)さんのプロフィール・経歴
【直木賞に決まって】燃え尽き、灰になれ 佐藤究さん https://t.co/MKbiIFpMos
直木賞の受賞が決まった翌日から、私はまるでロックスターのような日々の中に放(ほう)り込まれた。とはいえ、私と編集者にローリングストーンズが乗るようなリムジンが用意されるはずもなく・・
— 産経ニュース (@Sankei_news) August 8, 2021
本名:佐藤 憲胤(さとう のりかず)
生年月日:1977年9月13日([birth day="19770913"]歳)
出身地:福岡県福岡市
学歴:福岡大学附属大濠高等学校
執筆中には、よくメタルを聴いていたという佐藤究さん。
その理由とは、メタルは静かに始まって盛り上がって終わるというのは長編小説のお手本になっているんだとか。
「テスカポリトカ」は、メタルの作法で作った作品だそうです。
主な受賞作品
2004年 第47回群像新人文学賞『サージウスの死神』
2016年 第62回江戸川乱歩賞『QJKJQ』筆名:犬胤 究(けんいん きわむ)
2018年 第20回大藪春彦賞及・第39回吉川英治文学新人賞受賞『Ank: a mirroring ape』
2021年 第34回山本周五郎賞受賞・第165回直木賞受賞『テスカトリポカ』
2015年頃、郵便局でバイトをしながら『QJKJQ』を執筆し、江戸川乱歩賞受賞。
2004年から本名の佐藤 憲胤(さとう のりかず)の名義で執筆し、2016年に佐藤究と改名されました。
『テスカトリポカ』感想・レビュー
テスカトリポカ/佐藤究#読了
評判に違い無しの傑作。
惜しむらくは2点。タイトルが中々覚えられないことと、終盤に進むと「え?残りページこれだけしかないけど?」と全然尺が足りなく思えること。もっとこの世界の残酷さに浸りたかったなぁ。 pic.twitter.com/YPy746Kszu— カプラー@読書垢 (@5AKy9qhHY6TSQyB) August 10, 2021
佐藤究「テスカトリポカ」読了。
アステカ神話、麻薬カルテル、臓器売買、無戸籍児童、暴力ーーさまざまな要素が絡まり合いながら、メキシコ、インドネシア、川崎と舞台を移して紡がれる混沌のノワールノベル。
少し助長な部分はあるが、それを補って余りあるパワーと魅力に満ちた一冊。— 麻郎@読書垢 (@dewest_man) August 11, 2021
佐藤究著『テスカトリポカ』読みました。すごすぎて、読み終わった夜は眠れなくなってそのまま体調崩してしまった。完璧な暴力犯罪小説だった。メキシコの麻薬戦争と日本の川崎で生まれた少年が運命のように結びついていって、そしてどうなるのかは読めばわかります。
— 深見 真 (@fukamimakoto) August 8, 2021
『テスカトリポカ/佐藤究』読了。
めちゃくちゃ面白くて一気に読み切ってしまった。没入できるストーリーは勿論のこと, アステカ文化の情報量が単純に素晴らしく, 小6の時に中南米3文明について纏めた自由研究のことを思い出しながら楽しく読めました。
久々に良い物を読んだなあ。— ぷらむん (@plum_blaclaw) August 14, 2021
まとめ
アステカ王国の神話『テスカトリポカ』に準えて、麻薬密売組織の血で血を洗う争い、臓器ビジネスに発展したマフィアバイオレンス。
犯罪行為が禍々しいアステカ文明の生贄儀式と結び付けられる荒々しい物語で、ものすごい熱量が伝わってきました。
「闇の鏡」とは、人間の心の隙間のことなのかもしれません。
怖い描写もありますが、人血で染め上げられた漆黒の闇社会を書いた極上のエンタメ小説です。